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  • wassho
  • 2021年3月24日

現パロ甥叔父アルクラ フォロワーさんとの推しカプすごろく中に盛り上がって頂戴したネタ。

現代に転生して先に記憶が戻ったクラウス叔父さんと遅れて記憶を取り戻した甥っ子アルトの話。

 

「いつからですか——」

隊長、と続けそうになって止め、叔父さん、と言うのも淀んでしまう様子をクラウスは楽しく見ていた。まだ上手く状況が飲み込めていないのだろう。5分程前まで可愛い甥のつもりでいた彼は可哀想に、目の前に置かれた好物の特製グラタンスープにさえ、手を付けられないでいる。

漸く整い始めた2人の生活空間が、一気に贋物に成り果ててしまった。可哀想にと、クラウスは心の中で何度も憐れんだ。憐れむと同時に面白おかしくもあった。

頭の中にある遠い記憶。それによれば彼等は上司と部下、そして敵同士だ。塔の頂での出来事を、非日常を今でも思い出せる。街の焼けるその匂いまで。

いつから?初めからに決まっている。君が親に連れられ、甥として私の隣に座り、勉強を教えてほしいと頼んできたあの日から——

そう突き付けてやっても良かった。良かったのだが、

(お前は、エルクレストではないのか)

僅かに対峙する間、彼がただの【アルト】でしか無い事が、何故か分かってしまった。彼の中に心から憎んだかつての親友は、一ミリも存在しない。

舌打ちしかけて啜った珈琲のぬるさと苦味が、急速に感情を削いでいく。

赤子の様に駄々を捏ねても、記憶は過去の物で仕方のない事なのだ。

だからクラウスは、やり方を変えることにした。

「混乱するのも無理はないね」

あくまで叔父である事は捨てずに、優しい声で、

「安心すると良い、此処にはもう戦う理由……天使も、神もいないんだ」

いつかと同じ調子で、そうすればこの子供は絆される。

「私も君も、叔父と甥である事に変わりはない」

インターホンが鳴る。注文していたカウチが届いたのだろう。

「早く食べてしまいなさい、アルト」

午後は模様替えを手伝って貰うよと告げて、席を立つ。

住人が一人増えただけでも、何かと物入りだ。



  • wassho
  • 2021年3月24日

elcxeno

 

「最初は子供扱いされたんだと思ったよ」


しかし、それが彼なりに歩み寄って来てくれた証なのだと気付くのに、そう時間は掛からなかった。乳白色の波間に揺らめく表情も、以前よりずっとずっとやわらかい。


「でも、ただ甘い物が好きだっただけなんだなって」

にやりと揶揄ってみせる。それに困って笑う声は、カップの底で沈んだ蜂蜜みたいにいじらしくて、優しかった。

どうしても苛烈でいなくてはならない、どうしても冷静にすべてを見渡さなければならない。少なくとも太陽が昇っている間は。だからこんな風に、友人が穏やかでいられる夜の時間がエルクは愛おしい。例え頭上に大敵が輝いていたとしても。


温かな飲み物と緩く弧を描いた口元をどうかいつまでも。


  • wassho
  • 2021年3月24日

elcxeno(●kyt.結魂パロ)

 

葬儀と言っても、出立の前に血を流し、これ以上身が損なわれる事のない様にという、謂わば願掛けに近い。本来なら神の御前である教会にて、本物の葬儀と同じような形式で執り行う物だ。

しかし、神など存在していなかった。今まで神と崇め奉ってきた存在こそが、人々の命を脅かす敵だったのだ。立ち向かう脅威へ願うなどと皮肉にも程があるなと、黒衣に身を包んだ——と言っても、普段着用している上着を黒い物に着替えただけだが——エルクレストは苦笑する。隣で口を引き結んでいたゼノは、黒いサーコートの上に羽織ったローブの隠しから、細身の短剣を一組取り出し言った。


「祈りを捧げる者は此処にはいない、いなかった」


施された細やかな意匠でその二本が対である事が分かる。ひとつはエルクレストに渡した。


「だから、私たちは互いに誓おう」


鞘から覗いた刀身が、傾きかけの陽を眩く反射して、思わず目を細めた。掌へ抜き身を僅か沈ませ、そのままゆっくりと引く。首筋に微かな震え、少し遅れて痛みと鮮血が滲み出した。

本来であればこの後、祭壇に設置された水盆へ血を捧げるのだが。


「俺は君に誓う」


静かだが力強い声に隣を見やると、エルクレストの手にも同じように赤が浮かんでいた。どちらともなく手を伸ばし重ね合わせる。ぬるりとした血液の感触が混ざり合う。握った傷の痛みと溶け合うような感覚。そう、これは神への刹那的な祈りではない。


「剣となって必ずマザーを討つ」

「ならば私は、盾として君の一助となる、何処までも共に」


手に込もった力が己の物なのかエルクレストの物なのかは分からない。傷口の仄かな熱も、伝わる鼓動も、まるでそこに存在するひとつの命に触れているみたいだった。


「共に——」


ふとエルクレストが教会の窓を見上げる。鐘塔の鐘が夕刻を告げていた。広く高く、レグナントを統べる音。

ゼノは茜空に気を取られている友人の手に、ハンカチーフを当ててもう一度手を握った。どうかこの誓いが壊れる事のないようにと祈りながら。


混じり合う事など無いのだと分かっていた。

ぱらぱらと固まった血の欠片が布地からこぼれ落ちた。あの時、ほんの数分前にエルクレスト自らの手で開かれた傷口にはもう、薄皮が再生し始めていた。ゼノの傷から出る血は、まだ点々と教会の床を汚していたのに。

心のどこかで気付いていたのだ。彼は別の生き物で、いつか自分を置いて行ってしまうんだと。きっとエルクレストの左手には傷など残されていないのだろう。

ゼノは僅かの間瞑目した。掌に残された約束を握りしめて。



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