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  • wassho
  • 2020年11月5日

elcxeno

 


ああ、こんな事で、

出来るならこんな事で、その唇に触れて欲しくは無かった。



地方遠征の朝、略式だが壮行の儀が執り行われた。

謁見の間に並ぶ遠征隊の中にはエルクがいる。彼が自ら加えてくれと言い出した。これから増えるであろう戦いの為に、今はとにかく実戦経験を増やしたいんだ、と。

玉座から激励を述べたゼノは、少し緊張に強張った友人の前へと歩を進めた。

「英雄不在の国に加護を」

そう言い出したのは誰か。斜め後ろに控える宰相か横に立つ司祭か。

加護——英雄エルクレストは神ではない。しかし、神の使いである魔女を従えるその力は神と同等、そう考える者も少なくはなく、最近では教会を中心にエルクレストを信奉する一派が出来始めていたりもするのだ。

(色々と、絶えぬ物だな……)

ただ頑張れと、伝えたかっただけだった。しかしながら、僅か一瞬で友へかける言葉は鳴りを潜めてしまい、冷たく磨かれた床に映された、見たくもない己の顔からそっと目を逸らすだけ。こんな時、季節の変化に乏しいこの王都ですらも、まるで厳しい冬がやって来たような、そんな、肌のひりつきを感じる。


ゼノは凪いだ気持ちで膝を折り、英雄を見上げた。もはや同じ目線でいる時間はとても少なくなってしまっていた。加護を、誰かが繰り返し言う。エルクレストが躊躇う事なくゼノの頭に手を添え、額へと口付ける。ほんの少し触れるだけの何という事のない仕草で、幾人かの民が安心を得られるのなら、これは儀として有るべき物だ。

ただ、この心が、つまらなく揺れて擦り減るだけの、そんな正しさ。世界が成り立つためのつまらない仕組みのひとつ。


 

  • wassho
  • 2020年11月5日

elcxeno

 

母は背が高く、父とワルツを踊るのに難儀したと話してくれた。踵の高い靴を脱ぎ、毛足の長い敷物にその白くて柔らかそうな足先を埋めると、私をそっとダンスに誘うのだった。

私は、その足が冬の夜の大理石に触れてしまわないかと、そればかり気になって、気になって。


そして今は私が母の立場にいた。

正確な歳は分からないが、恐らくまだ成長期の、とても堂々とした背筋の友人は、真っ直ぐに私を見つめている。私に教えを請うているのだ。

少し待ってくれ、と私は友人から身を離した。ふと思い立ってショートブーツを脱ぎ、暖炉の横に揃える。なるほど、身長差が縮まって確かに踊りやすいかも知れない。母の気持ちを少しだけ理解出来たことに、口元が緩んだ。


「それは俺を笑っているんじゃないだろうな」

その声音に怒気は感じないから、機嫌を損ねた訳では無いのだろう。


「すまない、昔の事を思い出していた」

そう謝りながら友人の差し出す手に、右手を重ねた。


  • wassho
  • 2019年2月27日

ファイルを整理していたらコミティアのカットがだいぶ貯まっていることに気付いて並べてみました。多分2010~2018年までのもの。カット描くのいつも悩む。頑張ってびーえる描こうとしてた痕跡が見えて笑う……最近は夏服冬服差分で誤魔化したり、イラスト本から絵使いまわしたり楽しようとしてますね。



 

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