elcxeno
母は背が高く、父とワルツを踊るのに難儀したと話してくれた。踵の高い靴を脱ぎ、毛足の長い敷物にその白くて柔らかそうな足先を埋めると、私をそっとダンスに誘うのだった。
私は、その足が冬の夜の大理石に触れてしまわないかと、そればかり気になって、気になって。
そして今は私が母の立場にいた。
正確な歳は分からないが、恐らくまだ成長期の、とても堂々とした背筋の友人は、真っ直ぐに私を見つめている。私に教えを請うているのだ。
少し待ってくれ、と私は友人から身を離した。ふと思い立ってショートブーツを脱ぎ、暖炉の横に揃える。なるほど、身長差が縮まって確かに踊りやすいかも知れない。母の気持ちを少しだけ理解出来たことに、口元が緩んだ。
「それは俺を笑っているんじゃないだろうな」
その声音に怒気は感じないから、機嫌を損ねた訳では無いのだろう。
「すまない、昔の事を思い出していた」
そう謝りながら友人の差し出す手に、右手を重ねた。