elcxeno
誰にも言わないでくれ、普段よりも甘さを含んだ声で友人は言う。その顔がほんの僅か、仄かに赤みを帯びている。
エルクはまずったな…と手にしたグラスを見やった。なんて事はない葡萄酒だが、友人は然程アルコールに強くない。普段は度数の低い物が出される筈なのだが、どうやら給仕係が取り違えたらしい。本来彼に注がれるべき葡萄酒は、エルクのグラスの中で揺れている。
2人で囲むには少し大きい食卓。
磨かれた銀食器に映る友人の、困ったような心なし楽しげな顔。
給仕の者が叱られてしまうと声を潜めたそのさまは王と言うには「らしく」なくて、エルクは早々に談話室へエスコートしなければと思うのだった。