elcxeno
糸が切れたように倒れ込むのを、見ていることしか出来なかった。それがとても心苦しくて、エルクはすぐさま、部屋の真ん中のソファに駆け寄った。
静かな吐息もあまりに密やかで不安になる。肩が僅かに上下している事に安堵すると、改めて部屋の主を見つめた。
天窓から落ちる月明かりに照らし出された顔、その所々に、血が固まって間もない小さな傷が付いている。鎧を脱いでも鉄の気配が消えないのは、彼が前線まで出ざるを得なかった状況を表していた。あんな化け物でも、血の匂いは人と変わらない。
王宮の端にある寝所は静かだ。王の居室としては些か地味とも思える空間。部屋自体の広さは客間とそう大差なく、天井だけは他よりも高く作られている。
「ゼノ」
エルクは試しに呼び掛けてみる。聞こえたのかそうでないのか、口の中で何か呟くと僅かに身動いだ。薄らと瞼を持ち上げた彼は、此方を見遣ると微かに表情を歪めた。
「また何人も、死なせてしまった」
掠れた声がエルクの胸に刺さる。目を覆う腕にも手当ての跡はあって、上手く言葉が出てこない。
(お前は十分、こんなにも傷付いているじゃないか)
上衣を脱いで微睡む友に掛けてやる。やがて、静かな寝息が風車の駆動音に混じり、夜の淵へ消えていくのだった。