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  • wassho

 

 離宮の中庭に二人、酷く暗い面持ちの男と、しゃがみ込み泣きじゃくる女がいる。彼等の前では焚火が激しく燃え、火の粉を散らしながら【それ】を灰へと変えている所であった。

「君もね、そろそろ泣き止むといい。涙を流したってどうとなる物でも無いのですよ」

 男は慰めとは程遠い言葉を吐くと、また一つ【それ】を放り火にくべた。どさりと重たい音、そしてゆっくり炎に蝕まれていくのはまだ綴じられて日の浅い紙の束——本だった。決して分厚くは無いが、記された中身が如何に高潔な物であるか男も女も能く理解していた。


「けれどあんまりです」

 顔を覆った女の手は真新しく赤く爛れていた。男がふと目を離した瞬間、火の中から本を救い出そうとしたのである。慌てて止めるも、取り出したその燃える塊を頑なに離そうとはしなかった。痛々しい指の隙間から涙を零して女は続けた。

「公的な記録どころか、日記や手紙まで……」

 命令なのだから仕方がない。帰らぬ人となった主がそうしろと言ったらしいのだから。男は暖炉用の火搔き棒で燃え残りそうな本の表紙を掻き出した。皮と金属の装飾は先に外しておくべきだった。そんな事にも頭が回らないとは、自分も多少なり平静ではないのだろう。


「あのお方がこの国を作られたのに」

 明日からこの離宮には一人で来ようと男は決めた。部下に暇を与える理由は、手の火傷で十分の筈だ。

 極東では死者を燃やし弔うのだそうだ。焼けてなくなる書物を見守っていると、それらがまるで主の亡骸のような気さえしてくる。燃え残る装丁はさしずめ骨だろうかとそこまで考えて悲しみのようなものが遅れてやってきたのを感じる。

夕暮れの空に煙が立ち上る。その先には主の眠る月がある。やがて忘れ去られる貴き人を想いながら、砕けて欠けた墓標を目に焼き付けた。




  • wassho

elcxeno

 

 聖夜と呼ぶには血生臭い数日間だった。

辺境に現れた天使の群れとそれに乗じて奇襲を掛けてきた輩の討伐……帰還した時にはクリスマスなどとっくに過ぎ去り、人々は新しい年を迎える為の準備に追われるその手を止めて王と英雄の帰りを迎えてくれた。

 湯浴みで旅の汚れを落としたエルクレストとゼノは、迫る新年の気配を遠く喧騒に感じながら、今はゼノの私室で寛いでいる。

「随分と甘いな、これ」

 温かい紅茶に添えられた菓子を口にして、エルクが呻いた。

 木の実や干しブドウがぎっしりと詰まったパンを分厚く砂糖でコーティングした物、それを薄くスライスして食べるのだと、某博士にゼノは教わった。

「シュトレン、というらしい」

 摘み上げた一切れが脆く、半分ほど皿に落下していくのを切なく見送ってゼノは続ける。

「クリスマスに向けて少しずつ食べていくそうだ」

「とっくに過ぎているじゃないか……」

「そう、つまるところ日持ちの為の甘さなのだな」

 人を唸らせるほどの甘味は紅茶の渋味とよく合う。そして、それらが疲れた身体によく効くと、ゼノもエルクも体験済みだった。

 遠征が終わる度にこうして穏やかな時間を共にする。ささやかだが、いつしか恒例となり、二人の楽しみになっていた。


「……そろそろか」

 先程より賑やかさが増した外の様子に、いよいよ新年の訪れを想う。窓の向こうを覗くゼノは、民を案ずる王の顔をしていた。

「行かなくていいのか?」

 エルクは訊ねた。新たな一年の始まりに、王として相応しい場所があるんじゃないかとふと疑問に思ったのだ。眼差し遠く彼は答える。

「私は遠慮するよ」

 その声からは氷の中に取り残された落ち葉みたいに、温もりが失われてしまっていた。

 ほんの一瞬の憂いに気付きはしても、心に絡みついた鎖までは目視することは出来ない。どんな言葉を紡いでも五線譜に届かない。予感だけが先行してがんじがらめになる。ただこうして、わずかな時間と感覚をどちらともなく確かめるように共有するだけ。

 

「来年も、君が隣にいてくれると嬉しい」

 そんなことを思っていたんだ、と申し訳なさそうに笑ってこちらを振り仰いだ時、ゼノはすっかりいつもの様子だった。口の中に解け残る砂糖は冷たく重く、エルクの心臓を悪戯に軋ませた。新年を告げる鐘の音が、二人の耳にそっと届く。




  • wassho

二年半程前、新星急報社様のオーダー会に参加した時のメモがメールの下書きから出てきたので、記録として残しておきたいと思います。

当時(というより常に)私は推しに非常に餓えており、ハンドメイドのアクセサリーサイトをふらふらと彷徨ってはイメージカラー(妄想)やモチーフ(妄想)に合った物を探し購入する、ということを続けていました。 そんな時にフォロワーさんにお誘いいただいたのが【新星急報社】様のオーダー会です。 (オーダー会についてはこちらを参照のこと) カクテルや香水、ハーバリウムなど色々な形で推しの概念を具現化しようと日々必死こいていますが、何度やっても『自分の中にある推しのイメージ』を伝える・表現するのは難しい事だなと感じます…… 参加させて頂いたオーダー会ではフォロワーさんの体験談も参考に、ちょっとだけ気合いの入ったプレゼン資料を作っていくことができました。

ちょっと気合を入れたプレゼン資料

そして緊張しながらいざオーダー会です。 会場はカフェの二階にある屋根裏部屋のようなところで、小さな机と椅子、作家さんの持ち込んだパーツの詰まった箱がたくさん積まれていました。 隠れ家で作戦会議をしているようでとてもワクワクします。実際に話しているのは残念な腐女子の一方的な推しカプトークなのですが……プレゼン資料を元に落ち着いて話せたので、今後オーダー会に参加される方はやはり資料やメモを作って行くことをおすすめします。

トレイにパーツを置いてアクセサリーを組み立てていく

パーツの種類の豊富さは勿論のこと、それらを補足する逸話や知識の引き出しの数々にとても驚かされました。石と石をつなぐ鎖にも意味を持たせてくれるのが嬉しい!オタクは全てに意味を求めちまうんです…… 以下、オーダー会メモ(と言うより悲鳴)ですが、未編集なので見苦しい上に作品の事を知らないとハァ…って感じです。仕方ない……仕方ないからステラグロウをやろう。 ですので記事はここまでとさせていただきます。 推しへの解釈を細かく汲み取ってくれる・数多の知識からそれにぴったりな素材を選んでくれる・世界に一つだけのアクセサリーが爆誕してしまう! 新星急報社様のオーダー会、皆様是非参加してみてはいかがでしょうか。

 

情緒の乱れてる奇声を読むのが好きな人(?)だけ読んでもろて

イヤーフック

・まずは剣と槍のモチーフ(紙芝居のスチルを見て選んで下さった)

最初はツルッとしたプレート状のパーツだったけど、【過去の記憶】というのを汲み取って、少し凹凸のある、もやのかかったような印象のパーツへ変更

・剣と槍の隣には、思い出という型に内包される記憶という意味を込めて、円のパーツを配置

・そしてそれをイヤーフックへ繋ぐパーツとして三つの石をチョイス。

それぞれ、槍にはガラス剣にはジルコン円にはシェルのビーズパーツを付けていただいた!ここの素材の選び方がすごい。「ガラスの輝きは天然の宝石への憧れから来る」ォン…憧れ……嗚呼…

・円のパーツの中に盾をイメージしたスモーキーカラーのスワロを配置。石と円を繋ぐのは黒曜石のビーズパーツで、これは黒曜石が武器として使われていた事(武力の象徴)や占いや鏡としても使われてきた事(向き合うとかそう言う意味合い)で選んで下さいました!

・そしてこれらをフックに繋いでみると、微妙に重なり合う、重なり合うけど完全には重ならない。すれ違い!!!ウワーーーーーーッ!!!

・着けてみると、耳元で微かにパーツ同士がぶつかり合う音がして、何だか2人が肩並べて歩いてるみたいな気持ちになりました…ただ並べたのでは無く、石やパーツに意味を持たせるとこんなにも特別な物になるのかと……

お時間が少し余ったので、何と二つ目のアクセサリーをオーダーさせていただけることに!贅沢!?

同じエルクとゼノをモチーフに、先程のイヤーフックとセットで……ぜ、贅沢~ーーーーーーー!?!!予算の事もあったので迷ったのですが、抑え目に考えながら作って下さいました…!これがまた凄い。

ブレスレット

・二つ目はシンプルなブレスレットで製作。まず、過去の記憶という事から琥珀のビーズパーツ、それも透明感のあるものでは無く、透けない、少し不鮮明であると言う意味合いの物をチョイス。この琥珀さんが綺麗で可愛い黄色をしている…ねぇ、エルゼノがハニーレモンパイ食べる話書く……

・次はガーネット、別名柘榴石を二つ配置。これはザクロが登場するギリシャ神話(地獄や愚かしさの象徴であるお話)から、死のイメージ(?)を二人に絡めたもの。オ゛オ゛…オ゛……

・テーマとは全然関係ないのですが私の誕生花がザクロなので、ちょっと嬉しくなりました。

・黒のカニカンと少しゴツめなアジャスターは武力のイメージ。戦い続きの二人にぴったりです…なんかもう段々語彙が消滅してくる。先程の黒曜石も付けて下さいました…。

・そして最後、アジャスターの先に添えられたスワロ…このスワロの名前「パラダイス・シャイン」だそうです……ら、楽園。遠い思い出の中に存在したかもしれない楽園……辛い…しんどい…こんなに"意味"を持ったアクセサリーを身に付けて私は何を描けば良いのか……胸がいっぱいだなあ!!!!!!!!

 

叫んでんな~笑 原稿中に眺めて元気をもらっています。推しの概念は健康に良いんだ。

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